東京の台東区にある9階建ての細長いビル1棟を物販会社T社が1〜4階は店舗、 その上は事務所として長年使用中、9階はオーナー居宅です。 ビルは築後25年と古く、OA対応もままならぬ状態、しかしアクセスは良く 地下鉄もJRも駅はすぐ近く。オーナーのCさんは個人。いかにも江戸っ子らしい 頑固親爺です。業績のやや落ち目のT社は経営の実情につき数字を見せながら 説明し、15パーセントの家賃引下げを要請。しかし、Cさん曰く――冗談じゃない、 周りの家賃も地価もみんな上がっている中で何が引下げだ、逆に来年から上げ たいと思っていたのだ、と全く譲って貰える気配はありません。 T社は主張しました――しかしですよ、失礼ながら細長くて使いにくいこの建物 1棟を、長年不満一つ言わず、家賃だって一度として遅れたこともなく使って来ている のですよ、たしかに便利な立地ではありますが、新しい建物とは条件が違います、 家賃が上がっていると言われているのはもっと都心で最近出来た大きなビルが中心 であって、前からの建物は決して上がってはおらず、テナントが出て後が決まらずと いう所は都内でも結構あるようですよ、と。そして、さらに、こう言ってみました ―― 家賃の引下げが難しいならお預けてしている保証金の一部を返還して貰え ませんか、入居時お預けしたのは2億円、当時は保証金の水準が高かったけれど 最近はそれも少なくなっています、Cさんは堅実だから他に運用してなくなっている なんてこともないでしょう?と。Cさんは1ケ月後にこう言ってくれました―― 分かった、税理士とも相談したが、家賃は気持として3パーセント引下げし、保証金 の内8千万円は返還しよう、ただしその内4千万は半年毎分割2年払いにしてくれ。 T社としては目先の家賃がほとんど下がらなかったのは不満ながら、保証金の返還で 資金繰りが好転し少しは仕入れも楽になる、それに加えて、あの親爺、いかにも江戸 っ子だなあ、こちらの気持を理解しようとしてくれるところが良い、使い勝手は悪い けどこれからも居させて貰おう、と喜んでいました。